トラウマと自己免疫疾患の深い繋がり――心・身体・関係性から紐解く回復への道

自己免疫性疾患

はじめに:なぜ「心の問題」が「身体の病気」として現れるのか?

「病院で検査を受けても原因がはっきりしない」

「治療を続けているけれど、ストレスや緊張が高まると関節の痛みや強い倦怠感が再発してしまう」

――そんなお悩みを抱えていませんか?

全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)などの自己免疫疾患は、本来であればウイルスや細菌などの外敵から身体を守るはずの免疫系が、何らかの理由で自分自身の組織を誤って攻撃してしまう病気です。

従来、これらは遺伝や物理的な要因のみで説明されることが多くありました。しかし近年、精神神経免疫学(Psychoneuroimmunology)や最新のトラウマ研究により、過去の過度な心理的トラウマや持続的なストレスが、免疫機能の不全や自己免疫疾患の発症・進行に関与している可能性があることが明らかになってきています。

今回は、トラウマと自己免疫疾患を繋ぐ「生物学」「心理」「対人的・社会的関係」の3つのメカニズムと、その回復に向けた考え方、そして今日からご自宅で実践できる3つのセルフケアをご紹介します。


1. トラウマと自己免疫疾患をつなぐ3つの基本メカニズム

トラウマは単なる「過ぎ去った過去の嫌な思い出」ではありません。処理しきれなかった脅威や恐怖のエネルギーが、自律神経系や細胞に閉じ込められた状態として残り続けている――そのような理解が、近年のトラウマ研究から生まれています。この状態がどのように自己免疫疾患へと関わってくるのか、3つの側面から解説します。

① 生物学的メカニズム:身体と細胞の警戒アラートが消えない

トラウマ状態に陥ると、脳と自律神経系、免疫系を繋ぐネットワークが持続的な警戒状態に置かれることがあります。

炎症性サイトカインの過剰産生
炎症を推進するサイトカイン(IL-6、TNF-αなど)が増大し、炎症遺伝子を活性化させる経路が常時作動した状態になる可能性があります。

「コルチゾール・ブレーキ」の機能低下
通常は副腎から分泌されるコルチゾールが炎症を抑えますが、慢性的なトラウマ状態では抗炎症のブレーキが十分に機能しなくなることがあるとされています。

交感神経の過剰亢進
交感神経が緊張し続けることで、末梢組織に存在する免疫細胞が過敏化し、炎症性物質を放出し続けることがあります。

細胞のエネルギー産生の低下
細胞のエネルギー発電所であるミトコンドリアが危険を感じ取ると、エネルギー産生を抑えて「防衛モード」に切り替わることがあります。慢性的な疲労感や倦怠感の背景にこうしたメカニズムがある可能性が指摘されています。

統計データ
大規模なメタアナリシス研究によると、PTSDと診断された人は非PTSD群と比較して自己免疫疾患全体の発症リスクが統計的に有意に高いことが示されています(Mandagere et al., 2025)。

② 心理的メカニズム:感情の抑圧と「自己と他者」の境界線の混乱

幼少期や過去の環境で安全が脅かされた際、生存のためにとった心理的適応が、後に免疫系の混乱に関わることがあります。

感情の無意識な抑圧
親や周囲の承認・愛を得るために、怒り、悲しみ、つらさといった不快な感情を自分の意識から切り離して抑え込む癖が定着することがあります。

自己と他者の境界線の混乱
心理的に「自分の境界線」を守るための健全な拒絶や怒りが表現できないと、本来外に向けられるべきエネルギーが内側へ向かうことがあります。心理的な「自己と他者の区別の曖昧さ」は、免疫細胞が「自分の組織」と「外敵」を区別できずに自組織を攻撃してしまう病態と並行して生じることがあるとされています。

③ 対人的・社会的関係のメカニズム:安全な愛着と「共感的な目撃者」の不在

人間は、他者との安全な関係性や身体的な接触(協働調整:Co-regulation)を通して自律神経を落ち着かせる生き物です。

「共感的な目撃者」の欠如
トラウマとは出来事そのものだけでなく、「自分の痛みや恐怖が、安全で共感的な他者に受け止められないまま一人で内に抱え込まざるを得なかったこと」によって生じる側面があります。

人間関係での過剰な順応
他者に見捨てられる不安から、常に自分のニーズを犠牲にして「良い子」「完璧な人」であり続けようとします。この絶え間ない対人緊張が、神経系と免疫系を休まることのない警戒状態へ追い込むことがあります。


2. 回復に向けた考え方とアプローチ

言葉による会話療法や頭での理解だけでは、身体の深い部分に刻まれたトラウマ反応を変化させることが難しい場合があります。

セラピーオフィス・ほとりでは、身体と自律神経系に直接働きかけるボトムアップのアプローチを中心とした関わりを大切にしています。

ソマティック・エクスペリエンシング(SE™)
過去の脅威に対して発動しながらも「凍りつき」によって中断されてしまった本能的な自己防衛反応を、安全なセッションの中で非常にゆっくりと完了させていきます。神経系に閉じ込められていた過剰な生存エネルギーが少しずつ放散され、身体が本来の安全な状態を取り戻していく可能性があります。

ペンデュレーション(振り子運動)
身体の「不快感・緊張・症状」に一気に向き合うのではなく、身体の中にある「比較的落ち着いている部位」と「不快な感触」の間を振り子のようにゆっくり行き来します。これにより、神経系が耐えられる範囲を安全に広げていきます。

パーツ心理療法にもとづいた方法
「体調を崩してでも他人にノーと言わせないように守ってきた部分」や「過剰に傷つきを抱えた内なる存在」に温かい意識を向け、心の境界線を一つひとつ引き直していきます。

生化学的・生活習慣的サポート
神経系が安心して解きほぐれるためには、細胞やミトコンドリアのエネルギー容量が必要です。質の高い睡眠環境の確保、抗酸化・抗炎症を意識した栄養、刺激を遮断する短時間の休息を取り入れることで、生物学的な土台を整えます。


3. 今すぐ始められるセルフケア3選

専門的なセラピーを受ける前に、ご自宅で今すぐ始められる「自律神経に安全シグナルを送る3つの習慣」をご紹介します。

① ヴーサウンド呼吸(低い発声による迷走神経のケア)

やり方
椅子に深く腰掛け、息を吸ったあと、お腹の底から響かせるように低い声で「ヴー……」と長く音を出します。

ポイント
胸や腹部に心地よい振動が伝わるのを感じます。この振動が迷走神経を刺激し、緊張した自律神経を和らげ、安心感をもたらすとされています。

② 足裏のグラウンディングと身体境界のタッチ

やり方
両足の裏をしっかり床につけ、大地に支えられている感覚を感じ取ります。次に、自分の手で反対側の腕や太ももを優しく包み込むようにギュッと握り、「ここからここまでが私の身体である」という境界線を確認します。

ポイント
「今・ここ」の物理的な存在感を取り戻すことで、思考のループや過覚醒から抜け出し、身体の感覚を安心の領域へと呼び戻す助けになるとされています。

③ 目元のケアと感覚的休息

やり方
日中、疲れや緊張を感じたら、手のひらを温めて閉じた目元を優しく覆います(目を直接圧迫しすぎないよう注意)。また、1日5分でも静かな暗い部屋で横になります。

ポイント
目元への優しいケアは心拍を落ち着かせ、自律神経を沈静化させる効果があるとされています。過剰な視覚・音刺激を遮断する「感覚的休息」は、脳の炎症を和らげ、エネルギーの回復を助けるとされています。


おわりに:身体はあなたを裏切ったのではなく、守ろうとしてきた

自己免疫疾患の症状が現れると、「自分の身体が自分を裏切った」「なぜ私の体は壊れてしまったのか」と自分を責めてしまいがちです。

しかし、精神神経免疫学とトラウマの視点から見れば、その症状は「過剰な危険に直面しながらも、あなたを生き延びさせるために身体が懸命に続けてきた防衛反応の証」でもあります。

身体が「ノー」と伝えているとき、それは「これ以上、自分を偽ったり無理を重ねたりしないで」という、本来の自分を取り戻すためのメッセージかもしれません。

一人で抱え込まず、ゆっくりと身体の声に耳を傾け、安全な環境の中で神経系を解きほぐしていきましょう。セラピーオフィス・ほとりは、あなたが安心して本来の健やかさと繋がりを取り戻せるよう、いつでもその傍らに寄り添っています。

痛みや不調が長く続いている方へ
当オフィスでは、お話をうかがいながら、身体の感覚を手がかりに神経系へ働きかけるSE™やEMDRを行っています。言葉で整理するだけでなく、身体からも痛みの背景に近づいていきます。まずはいまの状態とこれまでの経緯をお聞きし、無理のないペースで進めます。
→ セッションの流れ・料金


参考文献

Mandagere, K., Stoy, S., Hammerle, N., Zapata, I., & Brooks, B. (2025). Systematic review and meta-analysis of post-traumatic stress disorder as a risk factor for multiple autoimmune diseases. Frontiers in Psychiatry, 16, Article 1523994.

Song, H., Fang, F., Tomasson, G., Arnberg, F. K., Mataix-Cols, D., Fernández de la Cruz, L., et al. (2018). Association of stress-related disorders with subsequent autoimmune disease. JAMA, 319(23), 2388–2400.

O’Donovan, A., Cohen, B. E., Seal, K. H., Bertenthal, D., Margaretten, M., Nishimi, K., et al. (2015). Elevated risk for autoimmune disorders in Iraq and Afghanistan veterans with posttraumatic stress disorder. Biological Psychiatry, 77(4), 365–374.

Dube, S. R., Fairweather, D., Pearson, W. S., Felitti, V. J., Anda, R. F., & Croft, J. B. (2009). Cumulative childhood stress and autoimmune diseases in adults. Psychosomatic Medicine, 71(3), 243–250.

Naviaux, R. K. (2014). Metabolic features of the Cell Danger Response. Mitochondrion, 16, 7–17.

van der Kolk, B. A. (2014). The body keeps the score: Brain, mind, and body in the healing of trauma. Viking.(柴田裕之訳『身体はトラウマを記録する』紀伊國屋書店、2016年)

Levine, P. A. (2010). In an unspoken voice: How the body releases trauma and restores goodness. North Atlantic Books.(池島良子ほか訳『身体に閉じ込められたトラウマ』星和書店、2016年)

Maté, G. (2003). When the body says no: The cost of hidden stress. Vintage Canada.(浅田仁子訳『身体が「ノー」と言うとき』日本教文社、2005年)

Apigian, A. (2025). The biology of trauma: How the body holds fear, pain, and overwhelm, and how to heal it. BenBella Books.

この記事を書いた人
志村秀実

検査で異常があってもなくても、それだけでは、その人の苦しみの大きさは測れません。お一人おひとりに十分に時間をかけて向き合うために、このオフィスを開きました。神経系とトラウマの視点から、慢性痛とストレス・トラウマのセラピーを行っています。
翻訳書『痛みからの解放』(春秋社、2025年)
作業療法士(国家資格)/公認心理師(国家資格)/臨床心理士

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