初めてのセラピーで大切にしていること――つらい体験を、最初から無理に話す必要はありません

セラピー

初めてセラピーを受けるときは、誰でも少し緊張するものです。

「うまく話せるだろうか」
「こんなことを話しても大丈夫だろうか」
「これまで何をしても変わらなかったのに、今度は本当に大丈夫だろうか」

そんな不安を抱えながら来られる方も少なくありません。長い間、痛みや苦しみを抱えてきた方ほど、セラピーを受けることを決めるまでに、たくさん迷われたことと思います。

だからこそ、セラピーオフィス・ほとりでは、最初から問題を解決しようと急ぐのではなく、まずは安心して過ごせる関係をつくることを大切にしています。


初回セッションは「すべてを話す場」ではありません

初回セッションの目的は、すぐに答えを出すことではありません。

初めてお会いするお互いが少しずつ知り合い、「ここなら話しても大丈夫そう」と感じられる土台をつくる時間です。

初回では、主に次のことを大切にしています。

  • 今、心と身体がどのような状態にあるのかを確認する
  • 何に困り、どのような助けを必要としているのかを伺う
  • 安心して話せる関係を、少しずつつくっていく

ご自分でも気持ちが整理できていなくて構いません。話したくないことを、無理に話す必要もありません。


まずは、今のお気持ちを聴かせてください

「今日は、どのようなことでいらっしゃいましたか」

初めに、そうお尋ねします。今、一番困っていることは何か、どのような助けを求めているのかを、ゆっくり一緒に探していくための問いです。

「とにかく、この痛みを何とかしたい」
「毎日がつらくて、どうしたらよいかわからない」
「自分でも、何を話せばよいのかわからない」

どのようなお答えでも大丈夫です。

言葉だけでなく、話す速さや声の調子、表情、身体の様子——そのすべてに、大切な思いが表れています。急かしたり、答えを決めつけたりせず、そのまま受け取ります。


つらい記憶に、すぐ踏み込まない理由

「トラウマを扱うセラピーなら、最初から過去のつらい出来事を話すのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、心の準備が整っていない状態でつらい記憶に触れると、かえって苦しくなることがあります。

動悸がする、息苦しくなる、頭が真っ白になる、何も感じられなくなる——こうした反応が起きることもあります。

そのため、その方が「今なら大丈夫」と感じられる範囲を大切にしながら進めます。専門的には、この無理なく受け止められる範囲を「耐性の窓」と呼びます。心と身体の様子を確かめながら、少しずつ進んでいくことが大切なのです。


まずは「安心できるもの」を一緒に探します

つらい体験に向き合う前に、自分を支えてくれるものを一緒に探します。セラピーでは、こうした支えになるものを「リソース」と呼びます。

特別なものではありません。たとえば:

  • 身体の中で、比較的楽に感じられるところ
  • 思い出すとホッとする風景や記憶
  • 大切な人やペットの存在
  • 安心して過ごせる場所
  • 好きな音楽や香り
  • 日常の中で感じる小さな喜び

「自分にはそんなものはない」と思われる方も、焦る必要はありません。一緒に探しながら、少しずつ増やしていきます。


セラピーは、段階を踏んで進みます

第一段階 安心できる状態をつくる

まずは緊張している心と身体を少しずつ落ち着かせます。「ここにいても大丈夫」と感じられる時間を育てていきます。

第二段階 つらい体験に少しずつ触れる

十分に安心できる土台ができてから、必要に応じて過去のつらい体験に少しずつ触れていきます。心と身体の反応を確かめながら、その方に合ったペースで進めます。

第三段階 過去に振り回されにくい自分へ

少しずつ回復が進むと、過去の出来事を思い出しても、以前ほど強く反応しなくなることがあります。過去をなかったことにするのではなく、「あの出来事は自分の一部ではあるけれど、今の自分を支配するものではない」と感じられる状態を目指します。

回復は階段をまっすぐ上るようには進みません。行きつ戻りつしながら、自分に合ったペースで進んでいくものです。


勇気を持って来てくださったことを大切にします

セラピーを受けようと決めることは、決して簡単ではありません。数ある相談先の中からここを選び、足を運んでくださったことを、当たり前だとは思っていません。

セラピストの役割は、知識や技術を一方的に押しつけることではありません。「今、この方には何が必要なのだろう」「どうすれば安心して進んでいただけるだろう」——それをご本人と一緒に考え続けることだと思っています。


うまく話そうとしなくても大丈夫です。気持ちがまとまっていなくても構いません。まずは、今困っていることから、ゆっくりお聞かせください。

この記事を書いた人
志村秀実

検査で異常があってもなくても、それだけでは、その人の苦しみの大きさは測れません。お一人おひとりに十分に時間をかけて向き合うために、このオフィスを開きました。神経系とトラウマの視点から、慢性痛とストレス・トラウマのセラピーを行っています。
翻訳書『痛みからの解放』(春秋社、2025年)
作業療法士(国家資格)/公認心理師(国家資格)/臨床心理士

セラピー