以前の記事「【整体・マッサージでも治らない方へ】なぜ、揉みほぐすほどに『痛みの防衛』は強くなってしまうのか?」では、整体・マッサージが慢性痛を悪化させる仕組みについてご紹介しました。今回はその中でも特に多くの方が悩まれている「肩こり」に絞って、より深く掘り下げていきます。
肩こりは「肩だけの問題」ではない
肩こりに悩む方の多くは、まず「肩の筋肉が硬い」という問題として捉えています。だからマッサージで揉む、湿布を貼る、ストレッチをする。
しかし、毎日ケアしているのに翌日には元に戻る。それどころか、年々ひどくなっていく――そのような経験はありませんか。
肩こりが治らない理由の一つは、肩こりが「肩だけの問題」ではないからです。
肩・首・背中の緊張は、神経系・呼吸・感情・過去の体験と深く結びついています。筋肉だけをほぐしても、その背景にある神経系の緊張パターンが変わらなければ、同じ状態に戻りやすくなります。
肩はなぜ「緊張しやすい」のか
肩という部位は、身体の防衛反応が特に表れやすい場所です。
危険を感じたとき、私たちの身体は無意識に肩をすくめ、首を縮め、胸を守ろうとします。これは「脅威への備え」として神経系が自動的に起動する防衛反応です。
一度や二度の脅威であれば、危機が過ぎた後に自然と緊張は解けます。しかし、長期にわたるストレス、過去のつらい体験、慢性的な不安が続くと、神経系は「まだ危険が続いている」と判断し、肩の緊張を解除しないまま警戒モードを維持し続けます。
これが、「意識的にリラックスしようとしても、肩の力が抜けない」という状態の背景にあることがあります。
デスクワーク・スマホが肩こりを悪化させる本当の理由
「デスクワークで姿勢が悪いから肩こりになる」とよく言われます。確かに姿勢の影響はあります。しかしそれだけが原因であれば、姿勢を直せば肩こりは治るはずです。
実際にはそうならないことが多い。なぜでしょうか。
デスクワークやスマホ使用は、身体的な負荷だけでなく、神経系への負荷も与えています。長時間画面を見続けることで、呼吸が浅くなり、視野が狭まり、身体が「戦闘準備状態」に近い緊張を維持し続けます。
さらに、仕事のプレッシャー、人間関係のストレス、「うまくやらなければ」という緊張感——これらの感情的なストレスが、身体の緊張として肩に蓄積されていきます。
姿勢を直しても肩こりが変わらない場合、姿勢だけでなく、神経系の緊張パターンが関わっていることがあります。
呼吸と肩こりの深い関係
見落とされがちですが、呼吸と肩こりは深く結びついています。
ストレスや不安が続くと、呼吸は自然と浅くなります。浅い呼吸では横隔膜が十分に動かず、代わりに首・肩・背中の筋肉が呼吸を補助しようとして緊張し続けます。
また、浅い呼吸は神経系に「今は安全ではない」というシグナルを送り続けます。呼吸が浅いと神経系が落ち着かず、神経系が落ち着かないと呼吸が深くならない――この悪循環が、慢性的な肩こりを維持する一因となっています。
「深呼吸をしてみてください」とよく言われますが、慢性的なストレス状態にある方は、深呼吸をしようとしてもうまくできないことがあります。神経系が「深く息を吸うこと」に抵抗を示す場合もあります。これは意志の問題ではなく、神経系の状態の問題です。
感情と肩こりの関係――「言えない言葉」が肩に残る
「肩に力が入っている」「肩の荷が下りた」「肩を落とす」――日本語には、肩と感情を結びつける表現が多くあります。これは偶然ではありません。
言いたいことが言えない、感情を抑え続けている、「頑張らなければ」というプレッシャーが続いている――こうした感情的な緊張は、身体の緊張として肩に蓄積されやすいのです。
「自分はストレスを感じていない」と思っている方でも、身体は正直に緊張を記録しています。意識に上らないストレスや感情が、肩の慢性的な緊張として表れることがあります。
神経系への働きかけで、肩こりはどう変わるか
SE™(ソマティック・エクスペリエンシング®)では、肩こりに対して次のような視点でアプローチします。
まず、肩の緊張を「取り除くべき問題」としてではなく、「神経系が何かを伝えようとしているサイン」として受け取ります。
「肩のあたりに、どんな感覚がありますか?重さ?熱さ?締め付けられる感じ?」
こうした問いかけを通じて、肩の感覚に静かに意識を向けていきます。感覚に気づき、それをただ観察することで、神経系は「今は安全だ」というシグナルを少しずつ受け取り始めます。
外側から無理に筋肉をほぐすのではなく、神経系自身が「もう鎧を着ていなくても大丈夫だ」と感じるプロセスを、ゆっくりと育てていきます。
今日からできる小さな試み
今、肩に力が入っていると感じたら、無理に力を抜こうとせず、次のことを試してみてください。
- 肩のあたりにどんな感覚があるか(重さ、熱さ、締めつけなど)を、ただ観察する。
- 座っている椅子や床に、身体が支えられている感覚に、少しだけ意識を向ける。
- 息を無理に深くせず、自然に出ていく息を感じる。
30秒ほどで十分です。つらさが強まるときは、無理せずやめてください。
まとめ
慢性的な肩こりが治らない理由は、肩の筋肉だけの問題ではありません。
神経系の緊張パターン、呼吸、感情、過去の体験――これらが複雑に絡み合っています。筋肉をほぐしても戻りやすいのは、神経系の緊張パターンが変わっていないことが関わっているかもしれません。
肩こりは、身体があなたに何かを伝えようとしているサインかもしれません。その声に、ゆっくり耳を傾けてみることから始めてみませんか。
※しびれや麻痺、胸の痛み・息苦しさを伴う場合や、症状が急に強くなった場合は、まず医療機関にご相談ください。
痛みや不調が長く続いている方へ
当オフィスでは、お話をうかがいながら、身体の感覚を手がかりに神経系へ働きかけるSE™やEMDRを行っています。言葉で整理するだけでなく、身体からも痛みの背景に近づいていきます。まずはいまの状態とこれまでの経緯をお聞きし、無理のないペースで進めます。
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参考文献
本文中の引用・参照(簡略表記)
- ラヴィーン, P. A.(池島良子ほか訳)『身体に閉じ込められたトラウマ』星和書店、2016年(Levine, P. A. (2010). In an unspoken voice: How the body releases trauma and restores goodness. North Atlantic Books.)
- ヴァン・デア・コーク, B.(柴田裕之訳)『身体はトラウマを記録する』紀伊國屋書店、2016年(van der Kolk, B. A. (2014). The body keeps the score: Brain, mind, and body in the healing of trauma. Viking.)