「異常なし」なのに痛みが続く理由
検査をしても異常が見つからない。
薬を飲んでも、マッサージをしても、根本的には変わらない。
大きなトラウマ体験があるわけでもないのに、慢性的に身体の調子が悪い。
そのような経験はありませんか。
慢性痛(慢性疼痛)の多くは、組織の損傷だけでは説明できません。
現代の神経科学・トラウマ研究・愛着理論は、慢性痛の底にもっと深い問題が横たわっていることを明らかにしています。
それが愛着(attachment)の問題です。
慢性痛の底にあるもの——愛着という基盤
co-regulation(共同調整)とは何か
人間の神経系は、生まれたとき自分一人では安定を保てません。
赤ちゃんが泣いたとき、親が穏やかに抱き上げ、声をかけ、呼吸を合わせる。
その関わりを通じて、赤ちゃんの乱れた神経系が落ち着きを取り戻す。
これをco-regulation(他者との関わりを通じた神経系の調整)と呼びます。
co-regulationは単なる「慰め」ではありません。
神経系の発達そのものに関わる、生物学的に不可欠なプロセスです。
co-regulationが不足すると何が起きるか
幼少期に適切なco-regulationを繰り返し体験することで、子どもは少しずつself-regulation(自分で神経系を安定させる力)を育てていきます。
しかしco-regulationの体験が少なかった場合、神経系のself-regulation機能が十分に発達しません。
その結果として。
- 日常的なストレスでも神経系が大きく乱れる
- 乱れた状態からの回復に時間がかかる
- 慢性的な緊張・不安・疲弊を抱えやすい
- 身体症状として痛みや不調が現れやすい
大きなトラウマ体験がなくても、慢性痛や慢性的な不調が起きやすくなります。
トラウマはその脆弱性の上に重なる
愛着の傷によってself-regulationが弱い状態のところに、強いストレスやトラウマ体験が重なると、神経系はさらに大きく乱れ、回復しにくくなります。
慢性痛を抱える多くの方の背景には、愛着の傷とトラウマが重なった神経系の慢性的な乱れがあります。
神経系の慢性的な乱れが慢性痛を生む仕組み
耐性の窓(Window of Tolerance)の狭窄
人が安定して機能できる神経系の状態を「耐性の窓」と呼びます。
幼少期に十分なco-regulationを受けた人は、この窓が広い。少しのストレスでは乱れず、乱れても回復しやすい。
しかしco-regulationが不足した場合、この窓は狭くなります。少しの刺激で過覚醒(パニック・過緊張)になったり、低覚醒(無感覚・解離)になったりします。
慢性痛は、この耐性の窓が狭い状態で神経系が発するSOSのサインでもあります。
身体に刻まれた記憶
愛着の傷やトラウマは、言葉や意識的な記憶としてだけでなく、身体の感覚・緊張パターン・姿勢として刻み込まれます。
これを「身体記憶(body memory)」と呼びます。
身体記憶は言葉で話すだけでは届きにくい領域です。だからこそ、「話すだけ」の方法では慢性痛が改善しにくいことがあります。
セラピーオフィス・ほとりの関わり方
ほとりでは、愛着の傷・トラウマ・慢性痛に対して、身体と心の両面から統合的に関わります。
中心となるのはソマティック・エクスペリエンシング®(SE™)です。必要に応じてEMDR、そしてタッチワークを組み合わせます。
いずれの介入も、クライアントへの十分な説明と同意のもとで進めます。
修正ではなく、尊重と承認から始める
ほとりの関わりの根本にある姿勢があります。
「あなたの身体の今をそのまま受け取る」
慢性痛や身体の緊張パターンは、過酷な体験を生き延びるための神経系の知恵です。それを「問題」として修正するのではなく、まず尊重し承認することが回復の出発点です。
この姿勢がなければ、どんな介入も神経系には「また別の脅威」として受け取られかねません。
セラピスト自身の身体からはじまる
ほとりの関わりは4E認知(4E Cognition)という現代の認知科学の知見を基盤にしています。
4E認知とは、認知(感じること・考えること)が脳だけでなく、身体・環境・行為・関係性の全体として起きるという考え方です。
セラピストが自分自身の身体の状態を整え、安全な存在としてそこにいること。それ自体がクライアントの神経系への最初の働きかけです。
セッションはセラピストの在り方から始まります。
セッションの流れ
フェーズ0:セラピストの在り方
セッションは技術の前に始まります。
セラピストがクライアントの「今」に全注意を向け、判断せず、ただ共にいる。この在り方がセッション全体の土台です。
これはco-regulationの出発点でもあります。
フェーズ1:神経系状態のアセスメント
クライアントの神経系が今どの状態にあるかを丁寧に観察します。
呼吸・姿勢・筋緊張・声のトーン——これらが神経系の状態を教えてくれます。
過覚醒(緊張・パニック)の状態か。低覚醒(無感覚・解離)の状態か。それとも耐性の窓の内側にいるか。
この観察がセッション全体の方向性を決めます。
フェーズ2:自律神経の調整
介入の前に、まず神経系を耐性の窓の内側へ招きます。
声・呼吸・距離感・ペーシング——接触なしでも神経系への働きかけは始まっています。
神経系が十分に安定してはじめて、次のフェーズに進みます。
フェーズ3:ソマティック・エクスペリエンシング®(SE™)・EMDR
ソマティック・エクスペリエンシング®(SE™)
SE™は、身体感覚を通じてトラウマを穏やかに解放する国際的に認められた方法です。
トラウマ治療というと、つらい記憶を掘り起こすイメージを持つ方がいます。しかしSE™は異なります。
SE™の中心は「今ここの身体感覚」です。
過去の記憶を直接扱うのではなく、身体に残ったトラウマの痕跡——緊張・収縮・凍りつき——に少しずつ穏やかにアクセスします。
この「少しずつ」が重要です。SE™ではtitration(タイトレーション)と呼ばれる原則に従い、神経系が圧倒されない範囲で、安全にトラウマを処理していきます。
処理が進むにつれて、耐性の窓が広がり、self-regulationの力が少しずつ回復していきます。
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
EMDRは、特定のトラウマ記憶の処理に有効な方法です。WHOもその有効性を認めています。
SE™で神経系の基盤を整えながら、必要に応じてEMDRを組み合わせることで、より効果的なトラウマ処理が可能になります。
フェーズ4:タッチワーク(必要な場合)
SE™とEMDRによる関わりに加えて、クライアントへの十分な説明と同意のもとで、タッチワーク(身体への穏やかな接触)を導入することがあります。
タッチワークは言葉や思考では届かない、身体記憶の深い層に直接働きかけます。
安全なタッチを通じたco-regulationの体験は、幼少期に不足していた神経系の調整体験を、大人になってから安全に補う機会になります。
タッチワークの詳細については次々回のブログで詳しく説明します。
フェーズ5:統合
セッションの最後に、体験を統合する時間を設けます。
身体感覚・イメージ・感情・気づきを言葉にする。非言語的な体験が言語と結びつくことで、神経系の学習が深まります。
次のセッションへの橋渡しもここで行います。
このような方にお勧めします
- 検査では異常が見つからないのに慢性的な痛みが続いている
- 大きなトラウマ体験はないのに、慢性的に身体の調子が悪い
- 日常的なストレスで神経系が大きく乱れ、回復に時間がかかる
- 過去のトラウマや強いストレス体験がある
- 身体の一部が「凍りついた」ように感じる
- マッサージや整体では一時的には楽になるが根本的に変わらない
- 「話すだけ」のカウンセリングで変化を感じにくかった
- 身体から癒しに向かいたい
まとめ
慢性痛の底には、愛着の傷とトラウマが重なった神経系の慢性的な乱れがあります。
幼少期のco-regulationの不足が、self-regulationの発達を妨げ、慢性痛への脆弱性の基盤となります。
ほとりでは、SE™を中心に、EMDR・タッチワークを統合した関わりで、神経系の自律的な回復力を引き出しながら、慢性痛・ストレス・トラウマへの支援を提供します。
関わりの中心にあるのは、修正ではなく、尊重と承認。
あなたの神経系の知恵を信頼しながら、安全なco-regulationの体験を積み重ねることで、少しずつself-regulationの力が育ち、慢性痛からの回復への道が開かれていきます。
次回のブログ
身体は覚えている――慢性痛とトラウマをつなぐ防衛反応
セラピーオフィス・ほとり
慢性痛とストレス・トラウマの専門セラピー
セラピーオフィス・ほとりでは、作業療法士・公認心理師・ソマティック・エクスペリエンシング®認定プラクティショナー・EMDR認定セラピストの資格を持つセラピストが、身体と心の両面から慢性痛への支援を提供しています。
この記事に関するご質問・ご相談はお気軽にお問い合わせください。

