顎関節症・歯の食いしばりがなかなか良くならない理由――無意識の緊張と神経系の関係

慢性痛

はじめに

朝起きたときに、顎がだるい。

気づくと、奥歯を強く噛みしめている。

パソコンに向かって集中していると、いつの間にか歯を食いしばっている。

マウスピースを作って使っているけれど、歯ぎしりや食いしばりそのものはなくならない。

そんな経験はありませんか。

顎の痛みや口の開けにくさ、顎の音、歯の食いしばりなどが続くと、「噛み合わせが悪いからではないか」と考える方も多いと思います。

実際、顎関節や咀嚼筋、歯などの状態を確認することは大切です。

一方で、顎の症状には、身体的な要因だけでなく、睡眠、ストレス、心理社会的な要因、痛みの感じ方など、さまざまな要素が関係することがあります。

つまり、顎の不調を考えるときには、顎だけを見るのではなく、身体全体の状態や神経系との関係にも目を向けることができます。

以前の記事「慢性的な肩こりが治らない本当の理由」「慢性的な頭痛・片頭痛が治らない理由」では、首や肩の緊張が神経系の反応として維持されやすいことをご紹介しました。顎の緊張も、同じ視点から見ていくことができます。

※顎が急に開かなくなった、大きく口を開けられない、強い痛みが続く、顎の腫れや発熱があるなどの場合は、自己判断せず、まず歯科・口腔外科にご相談ください。

顎は「噛み合わせだけ」の問題ではない

顎関節症というと、「噛み合わせが悪いから起こるもの」と考えられることがあります。

しかし、顎関節症は一つの原因だけで起こる病気ではありません。

顎関節や咀嚼筋の状態、歯ぎしり・食いしばり、睡眠、ストレス、心理社会的な要因、痛みの感じ方など、複数の要素が関係することがあります。

そのため、現在は「噛み合わせだけ」を原因として考えるのではなく、身体的な要因と、生活・心理社会的な要因を含めて総合的に見ることが大切です。

歯ぎしりや食いしばりについても同じです。

歯ぎしり・食いしばりは、単純に「ストレスがあるから起こる」と言い切れるものではありません。

睡眠中の身体の反応や睡眠の状態、日中の集中や緊張、ストレスなど、さまざまな要素が関係しています。

だからこそ、

「噛み合わせを調整すれば、それですべて解決する」

あるいは、

「ストレスさえなくせば、歯ぎしりもなくなる」

と単純に考えることはできません。

歯ぎしり・食いしばりには、どんなものがある?

「歯ぎしり」というと、眠っている間に「ギリギリ」と歯をこすり合わせることをイメージするかもしれません。

しかし、歯ぎしり・食いしばりにはいくつかのタイプがあります。

眠っている間に歯をこすり合わせることもあれば、歯を強く噛みしめたり、顎に力を入れたりすることもあります。

また、日中に無意識に奥歯を接触させていることもあります。

本人が「歯ぎしりをしている」と自覚していないケースも少なくありません。

朝起きたときに、

  • 顎が疲れている
  • こめかみが痛い
  • 頬の筋肉が張っている
  • 歯が浮いたような感じがする
  • 歯のすり減りを指摘された

といったことから、初めて気づく場合もあります。

一方で、歯ぎしりや食いしばりがあるからといって、必ず顎関節症になるわけでもありません。

ここでも、複数の要因が関係しています。


なぜ、無意識に顎へ力が入るのか

顎の筋肉は、食事だけでなく、話す、飲み込む、表情を作るなど、日常生活のさまざまな場面で働いています。

そして、緊張しているときや集中しているときには、顎や首、肩などの筋肉に力が入りやすくなることがあります。

たとえば、

「仕事に集中しているとき」

「締め切りが迫っているとき」

「人前で話しているとき」

「失敗してはいけないと思っているとき」

などです。

本人は「ただ集中しているだけ」と思っていても、気づかないうちに奥歯を噛みしめていることがあります。

こうした反応を何度も繰り返していると、「集中すると歯を食いしばる」「仕事をすると顎が固くなる」という身体のパターンが身についていくことがあります。

これは、「すべてがストレスのせい」という意味ではありません。

ただ、緊張や集中と顎の筋肉の活動が結びついている場合には、その関係に気づくことが改善への手がかりになることがあります。


「歯ぎしり=ストレス」とは限らない

ここは大切なポイントです。

歯ぎしりや食いしばりとストレスとの関連については、さまざまな研究があります。

ストレスや不安などの心理的要因と、歯ぎしり・食いしばりとの関連を示す研究はありますが、研究結果から「ストレスが直接の原因である」と単純に結論づけることはできません。

特に睡眠中の歯ぎしりについては、睡眠中に起こる一時的な覚醒反応など、さまざまな生理的な仕組みが関係すると考えられています。

そのため、

「歯ぎしりをしている=強いストレスがある」

とも、

「ストレスをなくせば歯ぎしりがなくなる」

とも限りません。

一方で、もし自分自身に、

「仕事が忙しい時期ほど食いしばっている」

「緊張する場面で顎が固くなる」

「集中すると奥歯が触れている」

という傾向があるなら、その身体のパターンに気づいてみることには意味があります。


集中しているときほど、顎に力が入っていませんか?

一度、日常生活を少し観察してみてください。

パソコンやスマートフォンを見ているとき。

車を運転しているとき。

仕事に集中しているとき。

何かを考え込んでいるとき。

そのとき、上下の歯はどうなっているでしょうか。

奥歯が触れていないでしょうか。

顎に力が入っていないでしょうか。

舌や頬にも力が入っていないでしょうか。

多くの場合、本人はそのことに気づいていません。

「噛みしめてはいけない」と意識しているときには気づいていても、仕事や作業に集中すると、また元に戻ってしまう。

このような場合には、「顎を常に意識して緩める」のではなく、自分がどんな場面で顎に力を入れやすいのかを知ることから始めてみるのも一つの方法です。


呼吸と顎の緊張に目を向ける

緊張しているときには、呼吸が浅くなったり、顎や首、肩などに力が入りやすくなったりすることがあります。

顎だけを見ていると、

「顎の力を抜かなければ」

と、さらに力が入ってしまうこともあります。

そこで、顎だけではなく、呼吸や首、肩を含めた身体全体の状態にも目を向けてみます。

「今、呼吸はどんな感じだろう」

「肩は上がっていないだろうか」

「顎に力が入っていないだろうか」

と、ただ気づいてみる。

無理に深呼吸をする必要もありません。

呼吸を正しく変えようとする必要もありません。

まずは、今の身体がどんな状態なのかを知ることから始めます。


神経系への働きかけで、顎の緊張はどう変わるのか

SE™(ソマティック・エクスペリエンシング®)では、顎の緊張に対しても、身体に現れている感覚に丁寧に注意を向けていきます。

たとえば、

「顎のあたりに、どんな感覚がありますか?」

「重さはありますか?」

「こわばっている感じはありますか?」

「奥歯が触れている感じはありますか?」

といった問いかけを通じて、顎まわりの感覚を観察していきます。

ここで大切なのは、すぐに力を抜こうとしないことです。

「顎の力を抜かなければ」

「歯を噛みしめないようにしなければ」

と頑張るのではなく、

「今、顎にこういう感覚がある」

と気づいてみます。

そのうえで、呼吸や身体の他の部分にどんな変化があるのかにも注意を向けていきます。

身体の感覚を丁寧に観察することで、自分がどんな場面で緊張しやすいのか、どんなときに顎へ力が入りやすいのかに気づけることがあります。

そして、その気づきが、無意識に繰り返していた身体のパターンを見直すきっかけになることがあります。

ただし、SEが顎関節症や歯ぎしり・食いしばりを改善することが医学的に確立されているわけではありません。

SEは、身体感覚に注意を向けながら、自分自身の身体の反応を丁寧に扱っていくアプローチの一つです。

顎の症状については、必要な歯科的な診断や治療を受けたうえで、その補助的な選択肢として検討するのが適切です。


顎関節症を、身体と心の両面からとらえる

顎関節症は、顎関節や咀嚼筋などの身体的な状態だけでなく、睡眠、ストレス、心理社会的な要因、痛みへの注意や感じ方など、さまざまな要素が関係することがあります。

そのため、症状が長引いている場合には、

「顎の関節に問題があるのか」

「咀嚼筋に緊張があるのか」

「歯ぎしりや食いしばりがあるのか」

「睡眠の状態はどうなのか」

「日中、どんな場面で顎に力が入っているのか」

「痛みや違和感をどのように感じているのか」

など、複数の側面から見ていくことが大切です。

歯科での診察や治療が必要な場合には、まずそちらを優先します。

そのうえで、症状が長く続く場合や、ストレスや緊張と症状の変化が強く結びついている場合には、心理社会的な側面も含めて考えてみることができます。

歯科領域にも、身体面だけでなく心理面・心身相関の観点から症状を扱う「歯科心身症」という領域があります。

ただし、これは「顎の症状は心の問題」という意味ではありません。

身体的な要因と心理社会的な要因を分けて考えるのではなく、両方を含めて症状を理解するための視点です。


今日からできる小さな試み

今、顎に力が入っていると感じたら、無理に力を抜こうとせず、30秒ほど身体を観察してみてください。

1.顎の感覚に気づく

顎のあたりに、どんな感覚があるでしょうか。

重い。

こわばっている。

疲れている。

奥歯が触れている。

頬が張っている。

どんな感覚でも構いません。

「よく分からない」でも大丈夫です。

まずは、今の状態に気づいてみます。

2.上下の歯が触れているか確認する

安静にしているとき、上下の歯が軽く離れているかどうかに気づいてみます。

もし奥歯が触れていたら、

「離さなければ」

と力を入れる必要はありません。

ただ、

「あ、今、歯が触れていた」

と気づいてみます。

3.自然な呼吸を感じる

呼吸を変えようとせず、自然に出ていく息を感じてみます。

息を吐くとき、顎や肩に何か変化があるでしょうか。

少し力が抜けるかもしれません。

何も変わらないかもしれません。

どちらでも構いません。

30秒ほどで十分です。

顎の痛みが強くなる場合や、不快感が増す場合は、無理に続けないでください。


顎の緊張を「なくすべきもの」と考えない

歯ぎしりや食いしばりが続くと、

「また噛みしめてしまった」

「どうして力が抜けないんだろう」

「このまま顎が悪くなったらどうしよう」

と、症状そのものを気にすることが増えていきます。

もちろん、歯や顎に負担がかかっている場合には、適切な歯科治療が必要です。

ただ、それとは別に、

「自分はどんなときに顎へ力を入れやすいのだろう」

と観察してみることもできます。

仕事中でしょうか。

集中しているときでしょうか。

緊張しているときでしょうか。

何かを我慢しているときでしょうか。

あるいは、眠っている間でしょうか。

自分の身体のパターンを知ることは、それだけでも一つの手がかりになります。


まとめ

顎関節症や歯ぎしり・食いしばりは、噛み合わせだけで説明できるものではありません。

顎関節や咀嚼筋の状態、歯ぎしり・食いしばり、睡眠、ストレス、心理社会的な要因、痛みの感じ方など、さまざまな要素が複雑に関係することがあります。

そのため、

「マウスピースを使っているのに食いしばりが続く」

「仕事に集中すると、いつも顎に力が入る」

「緊張する場面で顎が固くなる」

という場合には、顎そのものだけでなく、自分の身体がどんな状況で緊張しやすいのかにも目を向けてみる価値があります。

歯科的な診断や治療が必要な場合には、それを受けることが第一です。

そのうえで、身体の緊張や感覚に気づき、自分の反応のパターンを知っていく。

SEは、そのための一つの身体志向のアプローチです。

ただし、顎関節症や歯ぎしり・食いしばりに対するSEの効果については、今後さらに研究が必要です。

「顎の力を抜かなければ」と頑張るのではなく、

「今、私はどんなときに顎へ力を入れているのだろう」

と、少しだけ身体に意識を向けてみる。

それが、無意識に繰り返している緊張のパターンに気づく、小さな一歩になるかもしれません。

※急に口が開かなくなった、大きく口を開けられない、強い痛みが続く、顎の腫れや発熱がある場合などは、自己判断せず、まず歯科・口腔外科にご相談ください。耳鳴りや聞こえにくさなどの症状がある場合も、必要に応じて医療機関にご相談ください。

マウスピースなどの治療が必要かどうか、また現在の治療を続けるべきかどうかについては、担当の歯科医師にご相談ください。

歯科での診察や治療を受けても症状が長く続く場合には、身体的な要因だけでなく、睡眠やストレス、心理社会的な要因なども含めて評価してもらうことが、症状を理解する一つの手がかりになる場合があります。

痛みや不調が長く続いている方へ
当オフィスでは、お話をうかがいながら、身体の感覚を手がかりに神経系へ働きかけるSE™やEMDRを行っています。言葉で整理するだけでなく、身体からも痛みの背景に近づいていきます。まずはいまの状態とこれまでの経緯をお聞きし、無理のないペースで進めます。
→ セッションの流れ・料金


参考文献

  • 日本顎関節学会『顎関節症の診療ガイドライン2023』
  • 和気裕之・澁谷智明「顎関節症患者の見方と対応――特に心身医学の側面から――」Comprehensive Medicine, 15(1), 2016年
  • 和気裕之「顎関節症患者を取り巻く諸問題への心身医学的な対応」日本口腔顔面痛学会雑誌, 1(1), 2008年
  • Stress and bruxism: a systematic review and meta-analysis. 2021.
  • Bruxism and stress: a systematic review and meta-analysis. 2021.
  • Bruxism: Best Evidence Consensus Statement. 2021.
  • ラヴィーン, P. A.(池島良子ほか訳)『身体に閉じ込められたトラウマ』星和書店、2016年
  • ヴァン・デア・コーク, B.(柴田裕之訳)『身体はトラウマを記録する』紀伊國屋書店、2016年

この記事を書いた人
志村秀実

検査で異常があってもなくても、それだけでは、その人の苦しみの大きさは測れません。お一人おひとりに十分に時間をかけて向き合うために、このオフィスを開きました。神経系とトラウマの視点から、慢性痛とストレス・トラウマのセラピーを行っています。
翻訳書『痛みからの解放』(春秋社、2025年)
作業療法士(国家資格)/公認心理師(国家資格)/臨床心理士

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