話すだけでは終わらない――言葉主体のカウンセリングと身体主体のソマティックセッションの違い

ストレス

身体に意識を向けながら進めるセラピーを、初めて体験する方の多くが「こういうやり方があるんですね」と新鮮な驚きを示します。言葉を中心に進む従来のカウンセリングとは、何が根本的に異なるのでしょうか。


1. 言葉主体のカウンセリングとは

従来の心理カウンセリングの多くは、言語を中心に進みます。過去の出来事を振り返り、感情を言葉にし、思考のパターンを整理する。認知行動療法のように、否定的な考え方を修正していく手法もあります。これらは確かに有効で、多くの方の助けになっています。

しかし、言語による整理には一つの限界があります。言葉は、大脳新皮質――つまり「考える脳」に作用します。一方、トラウマや慢性的なストレスの記憶は、より古い脳の領域、感情や身体反応を司る部分に刻まれています。

「頭ではわかっているのに、身体が反応してしまう」――これは意志が弱いからではなく、言葉が作用しにくい領域に問題があるからです。


2. ソマティックセッションとは何か

ソマティック(Somatic)とはギリシャ語で「身体」を意味します。ソマティックセッションでは、言葉による対話と身体の感覚への気づきを行き来しながら進みます。

「その感じは、身体のどのあたりに感じられますか」
「今、肩のあたりにどんな感覚がありますか?」
「その感覚は、温かいですか、冷たいですか、重いですか?」

このような問いかけを通じて、身体の内側の微細な感覚(フェルトセンス)を丁寧に追跡していきます。SE™(ソマティック・エクスペリエンシング®)では、感覚(Sensation)、イメージ(Image)、行動(Behavior)、感情(Affect)、意味(Meaning)という5つの次元——SIBAMと呼ばれる枠組みを通じて、体験を多層的に扱います。「この感覚はどんな意味を持っているのか」という問いも、セッションの重要な一部です。


3. なぜ身体に意識を向けることが有効なのか

トラウマ研究の第一人者ピーター・A・ラヴィーン博士は、トラウマは「出来事」そのものではなく、その際に完了しなかった身体の防衛反応が神経系に残っている状態だと述べています。

言語化・認知的整理を中心とした心理療法では、身体に残った防衛反応が完了されずエネルギーが蓄積されたままだと、症状が繰り返されることがあります。

ソマティックセッションでは、防衛反応が完了されないまま神経系に蓄積されたエネルギーを、安全なペースで少しずつ解放していきます。身体のわずかな震え、温かさの広がり、筋肉のゆるみ——こうした身体の自然な変化が、神経系の回復のサインとなることがあります。ただしこれらの変化は人によって異なり、特定の反応を誘導したり、期待したりするものではありません。


4. 言葉主体と身体主体――対立ではなく、補完

言葉主体のカウンセリングと身体主体のソマティックセッションは、対立するものではありません。

言葉は、体験を整理し意味づけする上で欠かせないものです。身体への働きかけは、言葉が作用しにくい神経系の深い部分に関わります。両方の要素を組み合わせることが、より深い回復につながることがあります。

当オフィスでも、言葉による対話と身体感覚への気づきを自然に組み合わせながらセッションを進めています。


まとめ

身体に意識を向けながら進めるセッションは、多くの方にとって新鮮な体験です。しかしその新鮮さが、これまで言葉では作用しにくかった領域への入口になることがあります。


セラピーオフィス・ほとりでは、SE™(ソマティック・エクスペリエンシング®)をベースに、身体感覚を通じて神経系に関わるセッションを行っています。


参考文献

本文中の引用・参照(簡略表記)

  • ラヴィーン, P. A.(池島良子ほか訳)『身体に閉じ込められたトラウマ』星和書店、2016年
  • ヴァン・デア・コーク, B.(柴田裕之訳)『身体はトラウマを記録する』紀伊國屋書店、2016年

参考文献(APA形式)

Levine, P. A. (2010). In an unspoken voice: How the body releases trauma and restores goodness. North Atlantic Books.(池島良子ほか訳『身体に閉じ込められたトラウマ』星和書店、2016年)

van der Kolk, B. A. (2014). The body keeps the score: Brain, mind, and body in the healing of trauma. Viking.(柴田裕之訳『身体はトラウマを記録する』紀伊國屋書店、2016年)